室屋初優勝。ふたつの要因

レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦。千葉・幕張海浜公園で開かれたレースは地元・日本のパイロット、室屋義秀の初優勝で幕を閉じた。

室屋は過去4度ファイナル4に進出し、3度表彰台(すべて3位)に立ちながらも、あと一歩のところで頂点には立てなかった。しかも、「年間総合で表彰台」を目標にかかげて臨んだ今シーズンは、開幕戦からの2戦でいずれもオーバーGによるDNFという結果に終わり、表彰台はおろか、ラウンド・オブ・8すら突破できずにいた。

室屋はそんな難しい状況下で、しかもよりプレッシャーの大きい地元のレースであったにもかかわらず、見事に初めての優勝を成し遂げたのだ。

 

室屋はこの第3戦、いかにして表彰台の真ん中に立ったのか。

第3戦では予選のフライトが強風と高波により中止となったため、トレーニングセッションを除けば、室屋のフライトはわずかに3本。時間にして3分あまりに過ぎない。だが、優勝の要因を探ってみると、そのわずか3本のフライトから、キーファクターとしてふたつの事実が浮かび上がってくる。

まずひとつ目は、「マクハリターンの攻略」である。

 

室屋は前述の通り、過去2戦オーバーGに悩まされ、苦戦を強いられてきた。今年から新しくなったGメーターに対応し切れず、バーティカルターンの際にことごとく最大荷重の制限である10Gを超えてしまっていたのだ。

そこで室屋はシュピールベルグでの第2戦が終わり、機体を活動拠点である福島に送ると、慣れ親しんだ環境でG対策のトレーニングを徹底して行った。その結果、パイロットたちの間で「マクハリターン」と呼ばれ、警戒されていた魔のバーティカルターンでオーバーGが多発するなか、室屋は一度もその波に飲み込まれることはなかった。室屋が語る。

「新しいGメーターに合わせてトレーニングデバイスを作り、十分にトレーニングをしてきた結果だと思います」

つまり、室屋は確実にGをコントロールすることで、千葉のレーストラック最大の難所を攻略したのである。

「やっぱりバーティカルターンで無理をすると、どうしてもオーバーGになってしまう。でも、うちのチームの機体は速く作られていて、スタッフが『機体が速いから無理をするな』と言ってくれた。バーティカルではスピードを残してターンし、その後の直線部分で追いついていくという作戦でした。加速を信じて飛べたことがこの結果につながったと思います」

でも、と言って、室屋はこう続ける。

「こっちもギリギリの勝負でしたから。決して簡単に攻略できたわけではありません」

そして、もうひとつ、室屋がこのレースを制することができた大きな要因となったのが、「スモークトラブルへの対処」である。

室屋はこの日の最初のフライトとなるラウンド・オブ・14で、プラス1秒のペナルティを受けた。スモークを出せずにく、フライトしたからだ。だが、室屋がスモークのトラブルに見舞われるのは、これが初めてのことではない。シュピールベルグでの第2戦でも、トレーニング3のフライト途中でスモークが出なくなり、すぐには修理できず、その後に行われた予選のフライトをスモークなしで飛ばざるをえなくなっていた。

今回の第3戦でも、もし直らずにラウンド・オブ・8を飛ぶことになっていれば、まず間違いなくマティアス・ドルダラーに敗れていただろう。室屋自身、「この1秒がなかったら、絶対、ポーディアムには上がっていない」と振り返る。

故障個所は前回の噴射ポンプとは違い、バルブ部分にあった。チームにとっては「まさか、こんなことは起きない、というくらいのことが起きた」のだが、それでも「第2戦でスモークシステムが壊れたので、第3戦までの間に5日間くらいかけてすべての配線をきれいにやり直していた。チームがそれを何か起きる前に先行してやっていた」ことが幸いした。「そうでなければ対処できかった」と、室屋は胸をなでおろす。

と同時に、室屋はレースの舞台裏に助っ人の存在があったことを明かす。その助っ人とは、昨年まで室屋のチームスタッフであり、今年からニコラス・イワノフのチームでテニクシャンを務める西村隆である。

「もう間に合わないかなと思っていたら、ニコラスが体調不良で飛べなくなった(ラウンド・オブ・14を棄権した)ことで、西村さんが急遽修理を手伝いに来てくれたんです。西村さんは昨年やっていたので、この機体のことをよく分かっていたおかげで、一気に作業が進んだ。だからギリギリ間に合いました」

室屋はホッとしたように、「ニコラスが飛んでいたら、そういうことはなかったと思います」と付け加えた。

ラウンド・オブ・8を前に、地上でスモークが出ることが確認できた室屋は、もはや何の不安もなく、飛び立つことができた。室屋は「チームのおかげでリラックスして飛べた」と話していたが、まさに「新旧のチーム・ファルケン」が一丸となって優勝への道をひた走った結果だった。

こうなれば、後はパイロットの仕事である。果たして室屋は、ラウンド・オブ・8、ファイナル4と、いずれもただひとり1分4秒台のタイムを叩き出し、他のパイロットをねじ伏せた。

晴れの表彰台でシャンパンを浴びたのはパイロットである室屋だけ。だが、この初優勝は間違いなくチームの総力を結集して成し遂げたものだ。

鮮やかなチーム・ファルケンの勝利である。

 

(Report by 浅田真樹)

 

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